麻酔科医(麻酔医)

乳がん(癌)患者の痛みと医師、麻酔科医(麻酔医)

現在、日本ではがん(癌)が死因のトップを占める。一方で、部位によっては治る病気になりつつある。そんな中、乳がん患者の痛みを軽減、解消する「がん疼痛(とうつう)治療」の充実が急がれている。がんによる痛みは早期、末期と関係がない。強い痛みが続くと他の治療を受けることもままならない。さまざまな病気で生じる痛みコントロールの専門医師「ペインクリニシャン」や麻酔科医(麻酔医)の活躍にも期待がかかる。

痛みの種類

3種類に大別

痛みは発生原因から、3つの種類がある。

(1)侵害受容性疼痛
侵害受容性疼痛(とうつう)
「侵害受容性疼痛」は傷や打撲、やけど、骨折、炎症に代表される痛みで、壊れた組織から痛みを起こす「発痛物質」が生じるために発生する。
(2)神経障害性疼痛
神経障害性疼痛(とうつう)
「神経障害性疼痛」は神経の損傷や圧迫、変成が原因で、ビリビリと痛む。病気やけがが治った後も起こる。
(3)心因性疼痛
心因性疼痛(とうつう)
「心因性疼痛」は肉体に原因はないが、精神状態で生じる。

乳がん患者の場合

乳がんなどの癌の患者の場合、がん細胞の分裂、増殖時に発痛物質を生じ、侵害受容性疼痛が起きる。がんが神経のそばで発生すると神経障害性疼痛になる。闘病の苦悩から心因性疼痛が起こる人もいる。加えてがんの放射線治療や化学療法が痛みを引き起こすこともある。

ペインクリニシャン

麻酔科医(麻酔医)などのペインクリニシャンは主に侵害受容性と神経障害性の痛みが治療対象だ。痛みの種類と原因を分析し、次に起きる痛みを予測した上で、治療を選ぶことが重要な役目となる。

鎮痛薬の使い方

がんの疼痛治療の基本的方法は1980年代に世界保健機関が提示した。

痛みを「弱い」「中程度」「強い」の3段階に分け、段階に応じて鎮痛薬を投与する。薬には経口薬、座薬、注射薬、体に張って皮膚から血液中に薬の成分を取り込ませる貼付(ちょうふ)薬がある。更に抗けいれん薬や抗うつ薬も補助的に使う。

オピオイド(医療用麻薬)

モルヒネなど

中程度以上の痛みに使われる「オピオイド鎮痛薬」は医療用麻薬とも言う。モルヒネもその一種だ。

中毒が起きにくい

健康な人が使うと脳の快楽中枢に作用し依存状態を引き起こすが、強い痛みがある状態では快楽中枢は刺激されず、依存や中毒が起きにくい。国立がんセンター中央病院緩和医療科は「モルヒネ使用への誤解が医師の間でも残っているのが課題」とみる。

必要量に差

オピオイド鎮痛薬は患者ごとに必要量に差がある。ペインクリニシャンは強い痛みが出る前から適量を探り、長時間効く薬、急速に効く薬を組み合わせ、痛みを制御していく。

それでも基本的な薬物療法では5~10%の患者の痛みを取り除けず、別の治療法が必要になる。例えば腹部の交感神経が刺激されて起きる膵臓(すいぞう)がんの痛みには、細い神経が集まった部分に神経を破壊する薬を注射し、痛みの伝達を遮断する腹腔(ふくくう)神経叢(そう)ブロックという方法がある。

治療初期からがん疼痛治療を

従来、乳癌患者の苦しみを取る緩和医療というとメンタルケアが注目され、ホスピスなどでの終末期医療の一環という見方が強かった。これに対し、がん疼痛治療は治療初期から行うことが必要で終末期医療ではない。

麻酔科医が不足

ペインクリニシャンはあらゆる痛みの治療が専門だ。その多くは麻酔科出身だが、全国的に麻酔科医は不足気味だ。腹腔神経叢ブロックなど専門性の高い治療は他科の医師では技術的に難しい。

麻酔専門の医師は「疼痛治療はがんの治療の中で起きる痛み、不快感を和らげる重要な治療。がん医療の発展にも不可欠だ」と増員を訴える。

がん疼痛治療を行うペインクリニシャンや麻酔科医がいる施設の一部

北海道 札幌医科大病院(札幌市)、禎心会病院(札幌市)
関東 独協医科大越谷病院(埼玉県越谷市)、順天堂大医院(東京都文京区)、駿河台日本大病院(東京・千代田区)、癌研有明病院(東京・江東区)、NTT東日本関東病院(東京・品川区)、横浜市立大病院(横浜市)
東海 藤田保健衛生大坂文種報徳会病院(名古屋市)、聖隷三方原病院(浜松市)
近畿 兵庫医科大病院(西宮市)、京都府立医科大病院(京都市)
中国 島根大病院(島根県出雲市)
四国 愛媛大病院(愛媛県東温市)
九州 佐賀大病院(佐賀市)