「乳がん最新事情」 田中完児先生 2004.5.30


第1部 乳がんの診断から治療まで
【診断】

1.視触診

変形、ただれ、左右の形の違いなどがないかを見る。

2.レントゲン(マンモグラフィー)

手で触ってもわからない病変を見つける。微細石灰化を見つけることができる。早期発見につながる。

3.超音波

しこりの中身を見る。(良性か悪性か)

4.細胞診

細胞をとってがん細胞であるかどうかを見る。細胞診の結果でがんと診断されることが多い。

5.針生検

細胞診も完璧ではないため、針生検を行うこともある。太めの針を刺して組織をとる。

6.マンモトーム

7.乳管ファイバー(乳管内視鏡)

乳管の中を見る胃カメラのようなもの。痛みはない。

*自己検診

内側:上から下へ 外側:下から上へ
乳頭を中心に「の」の字を書くように放射線状に。
お風呂のとき石鹸をつけて行うとわかりやすいと言われている。

【治療】

1.乳がんの特徴

局所病でもあり全身病でもある。
局所病:乳房、乳房近くのリンパ節に現れる。
全身病:小さいものでも早い時期から全身に転移する場合がある。

2.局所病としての治療

(1)手術
乳房
 全切除(乳頭を残す/残さない)
 部分切除(温存)
 同時再建
*早期発見すれば乳房を残すことができる。

リンパ節
 全郭清
 無郭清(最近はリンパ節をとらないことも多い)
 センチネルリンパ節生検
   センチネルリンパ節(乳房から最初に行きつくリンパ節)に転移がなければ、他のリンパ節にも転移はないだろうと推測し、リンパ節を全く切除しない。

リンパ節郭清の合併症
 わきの下の痛み、腕がはれやすい、あげにくいなど。

(2)放射線
温存の場合に再発防止のため行う。全摘の場合でも、残った皮膚から再発することもある。

3.全身病としての治療

(1)化学療法剤(抗がん剤)
 アドリアマイシン(AC/CAF)
 エビルビシン(EC/CEF/FEC)
 タキソール
 タキソテール
 シクロフォスファミド(CMF)
 メソトレキセート(5FU)

(2)ホルモン作用剤
 乳がんの6〜7割は女性ホルモン(エストロゲン)の作用でがん細胞が増殖、転移するため、エストロゲンを抑えることにより、がん細胞の増殖を抑える。

抗エストロゲン剤
 エストロゲン受容体に結合して、がん細胞の増殖を抑える。閉経前後を問わず使用。
 ノルバデックス、フェアストン

黄体ホルモン剤酢酸
 卵巣の機能を抑える。閉経前の場合のみ。
 ゾラデックス、ニュープリン

アロマターゼ阻害剤
 エストロゲンの産生(閉経後副腎で男性ホルモンを女性ホルモンに変える)を阻止する。閉経後の場合のみ。
 ただし、閉経前であっても黄体ホルモン剤酢酸との組み合わせで使用することはある。
 アフェマ、アリミデックス、アロマシン

(3)抗プロゲステロン剤

4.術後補助療法の方針

ホルモン受容性有 

閉経前
 リスク低:ノルバデックス+ゾラデックス
 リスク高:上記+化学療法

閉経後
 リスク低:ゾラデックス
 リスク高:上記+化学療法

 ホルモン受容性無:化学療法
*リスク高とは次の場合を言う。
 ・腫瘍が大きい
 ・リンパ節転移あり
 ・悪性度が高い
 ・35歳未満

3年に1度世界的な会議があり、乳がんの標準的な治療について話し合っている。

5.その他の治療

(1)薬物療法
ハーセプチン(分子標的治療薬)
 HER2陽性腫瘍細胞を持っている場合に限定
 HER2とは特殊な蛋白で、ハーセプチンはこの蛋白につく薬剤(抗体)。HER2蛋白を標的に集まり、間接的に免疫細胞ががん細胞を食べるようにする。

ビスフォスフォネート
 骨は健康な状態では、破骨細胞と造骨細胞がバランスをとって次々と入れ替わっていっている。がん細胞が破骨細胞を刺激して骨を溶かすのが骨転移。
 ビスフォスフォネートは、破骨細胞を抑制する薬剤。
 テイロック、アレリア、アクトネル

この薬はドイツで開発され、ドイツでは手術後すぐ使われるが、日本では輸入品であり高価なこともあって、手術後すぐには使わない。

(2)その他の抗がん剤
 ゼローダ/フルツロン:経口抗がん剤。保険適用
 カンプト(すい臓がんに使われる)/ナベルビン(肺がんに使われる):保険適用にならない
 ナベルビンは海外では乳がんに効果があるとされている。

乳がんの補助療法はバリーエーションが多い。


【日本の乳がんの現状】

1.乳がん罹患率
女性の悪性腫瘍発生率で、乳がんは第1位であり、年々増加している。30人に1人が乳がんになる。
子宮がんや胃がんは減少している。
2000年に乳がんになった人は35000人で、1970年の3倍である。2015年には5万人近くに増えると言われている。

2.日本の乳がんの特徴
(1)年齢層が低い
 40代後半から50代が多い。45歳が最も多い。欧米では、10〜20歳くらい遅い。

(2)死亡率が高い
 日米英の死亡率の比較
  米英は1990年から死亡する人は減っているが、日本では増加している。乳がんになった人の30%は亡くなっている。2000年に乳がんで亡くなった人は9241人。

女性のがんの種類別で見た死亡者
 30代〜60代:乳がんが第一位
 70代:胃がんが第一位
 この事実はほとんど知られていないのが現状。

40代〜50代の女性
 母、妻としての重要な時期にある。
 乳がん患者の子供の年齢:幼稚園〜小学生が多い。
 更に最近の傾向としては、
 シングルマザーが増えてきた。
 →お母さんが亡くなったら、子供はどうなる?
 生涯独身の女性が増えてきた。
 →家族がなく一人で不安を抱えていかなければならない。

欧米で死亡率が下がった理由
 マンモグラフィー検診の普及
 日本で治療を受けている乳がん患者の8割は、自分でしこりを見つけたことが発見のきっかけ。
 乳がんについて知ってもらう啓蒙活動
 いくらいい機会があっても、受けようという人がいなければ意味がない。

早期発見が重要である。
 0期(超早期)微細石灰化の段階(しこりとなっていない)で見つかると、10年後の生存率は95%。
 マンモグラフィーは触ってもわからないがんを見つけることができる。
 視触診のみの場合と比べて、マンモグラフィーでは約3倍見つけることができる。
 先進国の乳がん検診で、マンモグラフィーを使っていないのは二本だけ。
 平成13年にマンモグラフィー導入の通達が出たが、財政の問題や関心の低さから導入が進まない。

2003年の全国のマンモグラフィー導入率
 福島県 90%
 長野県 63.4%(2004年には75%にあがった)
 大阪 40.9%
 東京 24%
*都会ほど導入率が低い。しかし確実に増えてきてはいる。

3.日本における乳がん検診の受診率
 日本の成人女性 約2500万人
 平成12年に検診を受けた人 300万人
 そのうちマンモグラフィー検診を受けた人 30万人
 欧米では受診率は70〜80%であるのに対し、日本では10%以下である。
 マンモグラフィーの普及と受診率のアップにより、乳がんによる死亡者は4割減ると推計されている。

4.日本における乳がん治療
 乳がんの治療を行う診療科
 乳腺科、乳腺外科、外科の乳腺外来(婦人科、一般外科、一般内科ではない)
 始めからこれらの診療科に行くことが重要。
 間違った診療科で受診することによる見落としがなくなる。

5.乳がん検診
 対象は40歳以降に引き上げ
 マンモグラフィー中心の検診となり、視触診は廃止の方向へ。

早期発見のメリット
 命が助かる=精神的負担も軽い
 整容面(乳房が残る)
 費用面
  早期発見の場合:約20万円
  進行していた場合:100万円〜160万円
  早期発見すれば、1/5〜1/8の費用ですむ。

6.ピンクリボン運動(乳がんの世界的な啓発運動)
 乳がんでの悲劇を繰り返さない。
 女性が涙を流すことのない社会・健康づくり


第3部 質疑応答

Q.50年前に姉が右乳がんの手術を受けたが、最近左にがんが見つかり、手術を受けた。腕があがらなくなり、現在も薬を服用している。A.乳がんの治療は日進月歩であり、現在は腕の後遺症はあまりない。乳がんになった人の対側乳房ががんになる率は6〜7%。対側の検診を受けることが必要。

Q.乳がんは何故日本で増えているのか
A.はっきりしたことはわからない。
 食生活が変わり、動物性脂肪の摂取が多くなったこと。
 お酒も影響がある。煙草の影響は意外とない。
 ホルモン環境が変わった。食生活が変わり体格がよくなったこと。閉経が遅くなった、出産が遅くなったなど。
 閉経後の肥満
 遺伝。家族に閉経前に乳がんになった人がいる場合は要注意。卵巣がんも乳がんと同じ遺伝子。

Q.再建のリスクと再建による補助療法への影響は?
A.若い人は再建の話をするとしたいという人が多い。再建は整容性を目的とするので、再発とは別の問題であり、直接関係はない。また、治療に影響を及ぼすこともない。

Q.治療後妊娠可能か
A.転移、再発がなければ妊娠は問題ない。治療中の妊娠は避けること。

Q.リンパ節郭清後むくみが出る人の確率とどういう人がむくみが出やすいのか?
A.昔は筋肉をとっていたので多かったが、現在は1割くらい(25%という数字もある)

Q.タモキシフェンを飲んでいるが、髪がパサついたりするので、豆乳やザクロエキスなど女性ホルモンと同じ働きをするものをとっているが、問題ないか?
A.問題ない。豆乳に含まれるイソフラボンには植物性エストロゲンが含まれる。乳がんに関係するのは動物性エストロゲンであり、植物性エストロゲンはむしろ動物性エストロゲンを抑える効果がある。

Q.乳腺のう胞とは何か?乳腺のう胞と言われたらどうしたらよいか?
A.本当に乳腺のう胞であれば良性である。のう胞とは、風船に水が入ったようなものであるが、この風船にあたるところにがんができる場合がある。

Q.非浸潤がんでホルモンレセプターが1であったが、ホルモン療法を受けなかった。この選択は正しいか?
A.非浸潤がんについては意見が分かれている。受けても受けなくてもよい。放射線治療は再発予防として受けた方がよい。

Q.不妊治療でホルモン治療を受けたが、そのことが乳がんを誘発したのか?
A.不妊治療や避妊治療は大きな影響はない。

Q.乳がん患者が生活の中で大切にすることのアドバイスを
A.自分のため、家族のため、希望を持って前向きに。あまり落ち込まないこと。希望を持っている人の方が予後がいい傾向がある。

Q.乳腺症と乳がんの関係は
A.乳房に何らかの変化があれば乳腺症と言われる。乳腺症といっても非常に幅が広い。乳がんになりやすい乳腺症とそうでないものとある。組織をとってADHというものがあれば乳がんになる可能性が高いので定期的な検査を受けた方がいい。

Q.ホルモン療法5年が終わった後はどうなるのか?
A.治療は行わない。現在は5年以上治療を続けて効果があるという客観的なデータがないので、5年以上は行わない。薬は毒にもなるので、客観的に効果があることが証明されていなければ使用しない。タモキシフェンも昔は1年だったが、2年、5年と延びてきた。これはその期間服用を続けた方が効果がある(命が助かる)というデータが出たため。現在は5年→10年の比較試験が行われている段階であり、その結果が出るのは10年以上後になる。何か薬を飲んでいないと不安であれば、代替医療を取り入れてもよい。科学的な根拠はないが、精神的にはよい。

Q.現在UFTという薬を飲んでいるが、これはどういうものか?
A.治療の説明の「その他の抗がん剤」に該当する。症例を選べば効果がある。

Q.PETに変わる検査はあるか
A.PETが受けられるのは非常に恵まれている。PETがない場合は、骨シンチ、CT、MRIなどを組み合わせて検査を行う。

Q.ノルバデックスを半年程度やめていた時期があるが、このような場合、5年間とはどのように数えるのか?
A.休んでいた時期は除く。質問のケースでは、治療を開始していから5年半後まで。

Q.先生から見た良い患者とは?
A.誰でも不安を持っているのがわかるので、悪い患者と思う人はいない。治療は個人によってケースバイケースなのに、他の人が受けている治療をきいて、何故自分はその治療がないのかと不安がるような人は困る。
現在は、患者の家族のケアを考えている。患者同士は案外ケロッとしているのに、家族にストレスがたまっていることが多い。

*この内容をホームページに掲載することについては、当日の講師である田中完児先生の了承をいただいています。


乳癌の治療は日進月歩で変わっています。最新の治療をチェックすることをお薦めします。